ここ数か月、昔の懐かしいものと向き合うことが多かった。
写真や手紙、手帳や日記、あるいはCD、本などなど・・・・・・
私というひとりの人間の過去。自分でいうのもへんだけど、なかなか面白かった。
見せられない自分だけの黒歴史もあってこその、今なんだって思う。
過去に触れるノスタルジックな時間が持てたというのは、百歩譲って、コロナ渦のおかげということにしよう。
さて本題、ここ一週間で読んでいた図書館本。
これも、ひとりの「梶井真奈子」という獄中の女の心理や過去を探っていく物語である。
本のタイトルがバター?
バターの話?
前情報も何もなしに読んだ。
でも、柚木麻子作品といえば・・・・
もともとは旅エッセイ本や深夜特急などの紀行文系が大好きであった私を、女性作家小説にどっぷり引きずり込んだ強烈な印象の、これ。
たしか、止まらなくて2日で読んだ記憶が。そう、大人の読書の楽しさを再発見させてくれたのも、もしかしたら柚木麻子さんかもしれない。
しかも「ナイルパーチの女子会」を読んでから、この作品を共有したい!と、ブログに書評書いてみようと思ったんだった。
あの時と同じ、自分にも降りかかってきそうな・・・いや、自分にはこんなことないか、でも近しいところでこんなことあるかも〜。
という微妙な女の世界が魅力の、柚木麻子ワールド。
この「BUTTER」は、読み始めたらすぐ、
あ、あの事件のあの女性死刑囚がモチーフなんだなと気がつく。
2009年に世間を、そして婚活中男性を震撼させた「首都圏連続不審死事件」。
そして死刑囚ブロガーとも言われた「木嶋香苗」。
本の感想からは脱線するけれど、この事件には個人的にエピソードがある。
(夫から、結婚して何年か経った時に言われた話ですが)
そのころ私と夫はまだ独身同士。
夫は50歳手前で友達や仕事仲間からも長いこと「え?独身なんですか?結婚しないんですか??」と、せっつかれていたらしい。
なれそめは上の記事に書いたけれど、この事件が騒がれてる中、そんな夫が急に接近した相手(私)と結婚を決めてしまったものだから、仲間や兄弟がこぞってこんなふうに言ってきたそうだ。
「兄貴、その人ほんとに大丈夫?」
「えー、大丈夫か?まさかネットで知り合ったひとじゃないよな?気をつけろよ、練炭で殺されちゃうかもしれないぞ」
と。
こらぁ!失礼じゃないか!
私は・・・・お金や家なんかじゃない!弱っているときのカレーうどんに惹かれて結婚を決めたんじゃい。
それも、不純な理由ではあるが(汗)
そんな、いまだから笑える話というか、タイミング的にそりゃ心配するよねっていう印象的な事件だったので、この事件や人物をモチーフにしている話とわかってけっこうスルスルと読みすすめてしまった。
あと、普通本というのは後半になってからタイトルに納得したり、最後にタイトルの意味がわかってなるほどーーーという気持ちになると思うのだけれど。
この本では前半からカジマナこと梶井真奈子が、主人公である週刊誌の記者、町田里佳にバターの魅力を語る部分がふんだんに描かれていて、しかも、カジマナの傲慢なお嬢さまのような口調が、何故かたまらなくバターを欲しくなってしまうのだ。
「バターはエシレというブランドの有塩タイプを使いなさい。」
「冷蔵庫から出したて、冷たいままよ。本当に美味しいバターは冷たいまま硬いまま、その歯ごたえや香りを味わうべきなの。ご飯の熱ですぐに溶けるから、絶対に溶ける前に口に運ぶのよ。」
実は我が家、本物のバターは高くて手が出ず、いまだマーガリンしか買ったことがない。
(そんなこと言ったら絶対傲慢なカジマナに怒られそうだが)
本を読み始めたその日も、スーパーでおやつにこれを買った。
せめてものバター味(笑)
読みすすめていくと、殺人犯とわかっていても魅力的というのは言葉が間違っているかな〜、
・・とにかく自分にない女性のフェロモン的なものがガンガン出ている人だなぁと思う。
女の武器を余すところなく使って胃袋をつかみ、男を手玉にとり3人の男性を死に至らしめたとされるカジマナ。
これは世間の女子がみんな思ったことだろうけれど、いわゆる美人でもない、若くもない、スタイルもいいわけでもない女に世の男性がのめり込んでいくのは何故なんだろう。
そして彼女の独特な論理や傲慢さは幼少期の家庭環境からなのか、母との関係か?
学生時代や過去に何かゆがみやヒントがあるのでは?
取材拒否で有名なカジマナ、自分を受け入れない人種は視界に入れない。
そのバターの話がきっかけで気に入られた主人公である記者の理佳。
記者として接見や取材を受け入れてもらえるようになったのは良かったのだが、だんだんとだんだんと彼女のペースに翻弄されはじめる。
それはまるで彼女の色というか、菌が増殖していくように・・・
あるいは、何かカルトの洗脳のように・・・・
ちがう!
まさに、ねっとりと胸焼けしそうな溶けたバターだ。
そのバターに、正論や正義をからめとられてしまうのかもしれない。
ねっとりと溶けたバターのような読了感、でもきっと好きな方はいるはず。
ぜひ、女はコワイ柚木ワールドへ。