旅ゆけば~よろずな diary~

旅の記録と日々のあれこれを綴った日記です。

乃南アサ『六月の雪』を読んで、台湾に咲く白い花に思いを馳せる・・・のお話。

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六月の雪

 

年が明けて1ヵ月近くが経つが、相変わらず読書欲が止まらない。

仕事や家のこと、忙しいのには年末と変わらないのに、例えば30分でも時間があると手に取ってしまう。

 

そんな最近の私を魅惑した作家が乃南アサさん

 

またまた、素敵な作品に出会ってしまった。

しかも、私も2回ほど旅したことがある台湾を舞台にした物語。

『六月の雪』

本の表紙ってあんまり気にしたことなかったけど、これは素敵な本だという勘がドンピシャだった。

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30代前半、独身の杉山未來は、声優になるという夢に破れ、父母、妹、弟と離れ、祖母・朋子と東京でおだやかな二人暮らし。ある日、祖母の骨折・入院を機に、未來は祖母が台湾うまれであることを知る。

彼女を元気づけるため、未來は祖母ゆかりの地を訪ねようと台湾へと旅立つ。ところが戦前の祖母の記憶はあいまいで手掛かりが見つからない。そこで出合ったのはひと癖もふた癖もある台湾の人たち。

台湾が日本の植民地であったこともぼんやりとしか知らない未來は、中国国民党に蹂躙された台湾の人々の涙を初めて知る。いっぽう、朋子は認知症を発病し、みずからの衰えに言いようのない恐怖を覚えていた。未來は祖母のふるさとに辿りつくことができるのか。

『美麗島紀行』『ビジュアル年表 台湾統治五十年』と続く著者の台湾ものの、決定版とも言うべき感動巨篇。

 ebookjapan より あらすじ引用

 

もちろん、台湾においての長い長い日本統治時代を探るという内容にも引き込まれてしまったけれど、主人公が30代女子、SNSをガンガン使って日本の祖母へ写真を飛ばす場面などは本当にリアルな現代の若者を等身大に描いていて、それも面白かった。

 

既読がついた。とか、そういうのもとってもリアルでね。

 

いっぽう、オランダの植民地→日本の統治時代→そのあとに蔣介石の国民党が戒厳令を敷くという台湾の複雑な歴史も、恥ずかしながらこの本ではじめて知った。

そして、その歴史によって当時の台湾人は感情を表に出すことができず無表情になってしまったと、この本に書いてあった。

 

主人公の「そうなんだ」が読み手の自分の「そうなんだ」になって、この歴史を知ったうえで今度は日本人のひとりとして台湾に訪れてみたいとも思った。

 

台湾旅行の写真。台北の観光地しか訪れなかったけれど・・

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心動かされたことがまだある。

中盤の台湾出身の祖母の回想シーン。

「生き残って、故郷を失って、こうして今日まで生きてきた。けれど、考えてみれば我慢だけしているうちに年老いてしまったような気もする。(中略)一体いつまで我慢しなければならないのだろう。もう良い加減、いいのではないだろうか(後略)」

この部分を読んだだけで、その時代を生きた方々に対して敬意の気持ちがあふれる。

 

タイトルの六月の雪。

主人公が認知症がはじまった祖母の記憶の中にある、六月の雪をどうしても探したくて台南をゆく。

 

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植物年鑑より拝借しました。

 

その白い雪のような花は、日本名で「ヒルギモドキ」、 
台湾では「欖李花」(ランリーファ)というそうだ。

 

それを見つけて、ラインで母のスマホに写真を送り、入院中の祖母に見せるシーン。

これで、いつお迎えがきてもいいわと祖母が言う。

 

まるでスクリーンを見ているようにその情景が浮かんだ。

 

台湾の歴史という大きなテーマでもあり、すべての老いていく人への「生き抜くこと」というメッセージのようなものを感じてしまった。

さらに最後の数ページにもやはり生きること、ひとの一生の儚さを強く思った。

 

もう少し若かったら感じなかったこと、もしかしたら50代で読んだからこそ感じることがたくさんあった一冊でした。乃南アサ熱が止まらないワタシです。